医療法人 陽仁会 上靑木中央醫院 /
デイサービスセンターひだまりの郷南前川
相談員 清水 信貴さん
2023年1月を以て、清水 信貴さんはkintone エバンジェリストを卒業されました。今後も kintone を支える立場の一人として引き続きkintone に関わり続けてくださいます。
福祉系の大学を卒業後、医療介護業界一筋でキャリアを築き社会福祉士として現場に立つ傍ら、ICT(情報通信技術)担当として2度のkintone構築に携わった経験を持つ清水さん。2019年11月からは、kintone エバンジェリストとしての活動もスタートしました。
今回は、生活相談員や介護支援専門員など複数の肩書を持ちながらも2度のkintone構築において最前線に立ってきた経験と、医療介護業界の業務改善にICTの視点から向き合うという清水さんの活動についてお話を伺いました。
医療介護業界において専門職とICT担当の兼務は「業界あるある」だが、そこには課題も
患者さんやご家族からの相談を受けたり、医師のスケジュール管理をしたりと專門職の役目を全うする一方で、ICT関連のマネージメントも担当しているという清水さん。まずは、専門職と同時にICTの役割を兼務することになったきっかけを伺いました。
「もともと昔からPCなどが好きでずっと興味はあったので、他の人よりIT系にはちょっと長けていました。医療系の業界って、ICT担当の専任がいることはすごく稀なんです。そうすると、私のようなちょっとITが得意な人に相談がくる。そういうのが積み重なって、もともとは現場のみを担当していた私が、いつの間にかICT担当になっていました。(笑)実は、専門職をやりながらICT担当を兼務というのは医療介護業界のあるあるで、担当者に負担と責任が集中してしまう現状にも課題感を抱えています」
kintone導入のきっかけは直感。とにかく残業時間を減らすことを目指した
そんな清水さんのkintone導入のきっかけは、Excelでの情報管理に限界を感じてツールの移行を検討し始めたことだったそうです。
最初は移行先にAccessを選定し導入しましたが、管理の難易度が高かったそう。そのため、現場の声をスピーディーにシステムに反映することができず、全く現場に浸透しないという結果に。そんな時、お付き合いのある代理店の方に悩みを共有したところ、紹介されたのが kintone だったそうです。
「直感的に『Accessよりも簡単で、より凄いことができる!』と思いました。すぐにkintone導入を事務長に直談判し、導入に向けて動き始めました。最初に取り組んだのは、訪問診療に関わる業務です。当時Excelで診療についての報告書を、患者さん1人につき1シートで管理していました。つまり、80人の患者さんがいれば1つのエクセルファイルに80シート分ある訳です。間違って、患者さんのシートをまるまる削除してしまうことも珍しくありませんでした。非効率な作業のせいで残業が積み重なっていましたし、Excelでの管理にはみんな限界を感じていました。そんな時出会ったのが、kintoneでした。このExcelの業務をどんどんkintoneに移行して、とにかく残業時間を減らすことを一番の目的に導入を進めました」
たった一人でICT担当をしていた清水さん。データの移行時に起こったトラブルの記憶と共に、当時の感情を振り返ります。
「kintoneの導入が決まって動きはじめたのが、ちょうど年の瀬のタイミングでした。現場からも『年明けから使いたい』という声が上がっていましたが、実はExcelからデータを移行するときにちょっとトラブルがあって。上手くインポートが進まなかったんです。そこで相談できる人もいなかった私がどうしたかというと、年末年始の休みを使って500人分の患者様情報を全部一つひとつコピー&ペーストしたんです。その時は、本当に辛かった。でも、年明けにみんなに喜んでほしい、みんなのワクワクした顔がみたい、そういう気持ちがとにかくモチベーションにつながりました」
苦しい経験もあった、でもkintoneを通して業務が改善された未来が見えるからこそ諦めない
お正月休みを返上で、kintoneの本稼働を目指した清水さん。しかし導入後は「使いづらい」「なぜ入れたの?」などの厳しい声が返ってくることもあったそうです。それでも、改善を止めなかった理由について次のように語ります。
「正直『なんで休みを返上してまで、辛い言葉を投げかけられなくてはいけないんだ』と思うこともたくさんありました。でも絶対に改善のサイクルを中断することはできない。なぜなら、kintoneを作る人ってkintoneを触らない人には見えない、“少しだけ先のkintoneを入れた後の世界”が見えていると思うんです。絶対に現場が良くなる、便利になるという確信がある。いくら『使いづらいから辞めろ』と言われても、改善の未来が見えている以上途中で諦めるという選択肢はありませんでした」
導入して3年。現在では、当時1人で見ていた未来を、一緒に描けるようになったメンバーが増えているといいます。
「これまでは、現場からのニーズに私が応えるという流れがほとんどでした。しかし最近は、『これができるなら、あれもできる?』と現場のメンバー内でどんどん業務改善が進んでいく光景をよく目にします。まさに、かつて私のモチベーションになっていたワクワク感を、同じように感じてくれるメンバーがどんどん増えているのです。また、支援のプロフェッショナルである彼らの視点から意見がでることで、より良い支援の提供にも繋がります。こういったメンバーの変化を感じられるときが、ここまでやってきて良かったなと心から感じられる瞬間です」
何事においても諦めない姿勢、やり遂げる姿勢を見せ続けることの大切さ
その後、別事業であるデイサービス事業の主幹システムとしても、清水さん主導のもとkintoneを導入。(事例記事:https://kintone-sol.cybozu.co.jp/cases/hidamari.html)kintone導入の最前線に2度立った経験を持つ清水さんですが、時には心が折れてしまいそうな時もあったそうです。そんな困難を乗り越える上で大切にしている点を語ってくれました。
「現場のメンバーは、ITツールに慣れていない人も多く、キーボードを打てない人もたくさんいます。そんな人たちに対して、『新しいシステムを使ってほしい』と言うことは、なかなか簡単なことではないです。でも新しいシステムを導入したとして、『使えない人は情報を見なくていいです』と切り捨てることは絶対にしません。なにか困難があった時には、『こうすればどうにかなる』とか『ここは私がやるから、あなたはこっちを』とか、とにかくめげずに最後までやり遂げる姿勢を見せ続けるようにしています。こういった雰囲気をつくりだすことはkintoneに対してだけでなく、すべての事象において大切にしていることです」
「諦めずにやり遂げる」というマインドセットの根底には、“あらゆる人を尊重する”という社会福祉士としての信念があるそうです。
「私は社会福祉士として、人種や性別・年齢・思想・宗教などに関わらずすべての人が尊重され、貧困や暴力の無い平等な世界の実現を目指すという倫理観を持っていて、kintoneを普及していく上でもこうしたマインドが根底にあります。100人100通りの使い方を尊重し、どうしたらみんなが使えるようになるか、その都度丁寧に向き合う姿勢を見せ続けることを心がけています」
こうした考え方は社会福祉士になる前から持っていたものではなく、実際に患者さんやそのご家族と対峙する中で、徐々に持てるようになってきたものだそうです。
「患者さんと向き合うなかで、日々様々な相談を受けます。中には、彼らの人生を大きく左右するような、言ってしまえば“ヘビー”なものもあります。そんな中自分をどう保っていくかを自問自答しながら、彼らの人生に向き合わなければならない。ここだけは、実際に社会福祉士になって経験しないと培えない部分なのかな、と思います。なので本当に、患者さんに育てられた感覚を持っていますし、更にそういった患者さんを支える看護師や医師の方々に対しては、心から尊敬の念を抱いています」
看護師や医師にとっての「支援」の1時間と「作業」の1時間は、時間の重みが全く違う
そんな看護師や医師の方々が、「作業」に追われている現状を強く問題視する清水さん。この現状を打破するために必要なことについて語ってくれました。
「私自身、看護師や医師の方が事務作業をしている姿を見るのが、すごく嫌なんです。同じ情報を別の場所に書き写すとか、来たFaxをExcelに転記するとか。こうした現状を変えていくためには、『作業を減らして支援を増やしていく』必要性があると思っています」
ここで清水さんの言う「作業」とは“時間をかけてもアウトプットは変わらない行為“。例えば行政に提出する書類をつくるのに3時間かけても5時間かけても、書類が1枚できたという成果は変わりません。一方「支援」は、“時間をかける意義のある、人や社会へ貢献する行為“を指します。
「前者と後者では時間の重みが全く異なっていて、特に看護師や医師の方は後者の『支援』に時間を使える方たちです。そんな彼らの人生の1時間を、Faxや書類作成などの「作業」の時間に使ってほしくない。もしかしたら、彼らが「作業」に使っている1時間で、救われる命があるかもしれません。私の業務改善のモチベーションは、医師や看護師の『作業を減らして、支援を増やす』ことで、その先の患者さんたちの未来を変えていくところにあります」
また、今後医療介護業界に、業務改善のマインドを広げていくことについても語ってくれました。
「医療介護業界は、kintoneの開発能力がある人にとっては、改善に入りやすい業種なのではないかなと思っています。なぜならみんな、先程のような「作業」に時間を費やしている現状について課題を抱えているにも関わらず、解決方法がわからない、という状態にいるからです。そんな時に、kintoneなどのツールを導入することで、『その作業の1時間が3分になる』と言われたら一気にこの業界の変革が進んでいく可能性もあると思っています」
社会福祉士という立場から、ICTに関わるということーーあの時の自分にとって、“いてほしかった存在“になる
かつては、「社会福祉士でありながら、ICTにこんなに時間を費やしていていいのだろうか」と迷いを感じることもあったという清水さんですが、現在は社会福祉士として現場で働きながらICTに関わるという自身のあり方について迷いは無いといいます。Twitterやnoteでの発信が注目され、2019年11月からはkintone エバンジェリストとしても活動を開始した清水さん。ここからは、そんな清水さんのkintoneについての情報発信についてお話を伺いました。
「私の場合ただの業務改善だけではなく、社会福祉士としてICTに関わってきた経験を活かし、よりこの業界に寄り添った情報の発信をしたいと心がけています。これは私がkintoneの開発を始めた時の記憶ですが、当時はこの業界でkintoneを導入した、なんていう情報を発信している人はほとんど居ませんでした。今の私は、そんな過去の自分にとって“いて欲しかった存在”になれればいいなと思ってやっています」
現在、医療介護業界からは清水さん含め4名のkintone エバンジェリストが活動をしています。2019年のCybozu Days(サイボウズの開催する総合イベント)では、そういったメンバーと共に医療介護セッションへの登壇経験もある清水さん。共にこの業界についての情報発信を進める仲間がいる中で、自らの発信のあり方について語ります。
「kintone エバンジェリストの中では私の他にも、瀧村さん・峠さん・前田さんなどのメンバーが医療介護業界を代表して活動していますよね。伝道の方法に一人ひとり色があるのも、すごくいいなと思います。例えば私は、ミクロな視点での情報発信が自分の役割だと考えています。現場での困り事や課題にどんな風に取り組んだか、どうやって解決したのか、そんな現場目線の情報発信をしていきたいですね。同じ様に現場の課題で困っている声をTwitterで見かけたら直接リプライを送ってみたり、『相談がある』とメッセージをくれた方がいれば個別にZoomで相談にのってみたり。もしも過去の自分と同じような悩みを抱えている方が居るならば、もっと気軽に相談を投げかけてもらえればと思っています。
一方、私以外の3人は、地域間の医療連携や全国のオンラインkintonecaféの開催等、広いマクロ視点の活動も積極的にしていますよね。私のようなミクロな活動が社会を変える、という話になるとちょっとゴールまでの道のりが遠くてぼやけてしまうけど、彼らの活動はそれを伝えられる。どちらもすごく大切な活動だと思っていて、こんな風に同じ業界の中でも情報発信の仕方に特徴があってもいいのかなと思っています」
最後に、ICTから医療介護業界に関わるという清水さんの活動について、今後の展望を伺いました。
「今、kintone界隈では医療介護業界が結構着目されていますよね。この業界に注目が集まっていることは、すごく嬉しいです。ただ、業界全体でみると、こうしたツールがあること自体知らないことがほとんどですし、彼らはTwitterのような情報につながるチャネルも持っていないというのがまだまだ現実です。そんな彼らにいかに情報を伝えていくかは、自分自身の課題の1つでもあります。kintoneのようなツールがでてきたことによって、これまでは完成品を買って人が合わせるのが当たり前だったのが、システムが人に合わせるという世界になってきています。システムの内製化という選択肢があることを、とにかく知ってほしい、そして経験してほしい。そのためにいかに情報発信をしていけるのかを、今後もICT×医療介護という視点から模索していきたいと思っています」
清水さん、ありがとうございました!
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